整形外科

整形外科は、骨・関節、脊椎、脊髄、末梢神経、四肢外傷治療のエキスパートの集まりです。骨折、脱臼など四肢の外傷治療は、整形外科医にとっては基本中の基本であり、当科全員がその専門家です。更に、脊椎・脊髄外科、手の外科、肩・股・膝関節の外科の専門家を擁し、それぞれのスタッフが、自らの専門分野で最新の医療技術を持ち、また患者さんが安心して治療を受けることができる医療サービスを提供できるよう努力しています。学術活動も積極的に行い、診療実績の公開に努めております。なお、平成19年度からは、日本手外科専門医認定研修施設に指定されております。

主な対象疾患

脊椎領域

頚部脊椎症、頚部椎間板ヘルニア、頚部脊柱管狭窄症、頚椎捻挫(むち打ち症)、後縦靭帯骨化症、脊椎 脊髄腫瘍、腰痛症、腰部椎間板ヘルニア、腰部変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症、化膿性脊椎炎、脊椎圧迫骨折、骨粗鬆症

 

1.除圧術

腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどで坐骨神経痛、間欠性跛行(しばらく歩くと腰や足に痛みやしびれを生じ、少し休むとまた歩けるようになる症状)を生じている症例は、その大半が神経(馬尾神経、神経根)の圧迫が原因です。後方より肥厚し突出した骨や靭帯などを切除し、さらに椎間板ヘルニアを取り除くことで神経周囲の除圧(圧迫を取り除く)を行う手術法が適応となります。圧迫されている部位の数にもよりますが、手術はおおよそ1-2時間で終了します。
当院整形外科では術前に脊髄造影検査や神経根ブロックを行うことで責任病巣(原因の部分)を明らかにし、神経の圧迫の原因となっている部位のみを選択的に除圧し、後方支持組織(筋肉など)や骨を極力温存する方法を用いて手術を行っております。脊椎手術の中で最も多く行われている手術法です。著明な腰痛がなく、不安定な動きがない場合や、高齢の方が適応となります。

joatujutu-before

除圧術 術前

joatujutu-after

除圧術 術後

 

2.脊椎固定術

 著明な腰痛を伴う脊柱管狭窄症や、腰椎すべり症を代表とする脊椎不安定性を認める症例などが適応となります。このような病態では、除圧術単独では術後にさらに不安定性をきたす事が現在までの報告で知られているため、固定術を追加する必要があります。特に活動度が高い症例が適応となります。
下肢の疼痛、しびれや間欠性跛行などの症状に対し、脊柱管の除圧を行った上で固定術を追加することにより、安定した脊椎を獲得することが可能となります。神経への圧迫やや脊柱管狭窄に対し徹底的な除圧を行い、スクリュー、ロッドからなるインストルメント(金属製の内固定具)を用いて、正常に近い脊椎の形へと整復固定を行います。さらに人工骨、自家骨を移植し固定性を高めます。当院ではアレルギーの可能性が極めて低いチタン合金製で日本人のサイズに適合したインプラントを使用することで術後の負担を少しでも軽くするように留意しています。また術後はコルセットを用いて外固定を行い確実な骨癒合の獲得に努めています。

sekituikoteijutu

 

3.脊柱側弯症に対する矯正固定術

 脊柱側弯症は主に小児期や思春期に起きる病態として知られていますが、成人になってから明らかになる場合もあります。当院では平成24年10月より側弯症外来を設立し、側弯症の治療を積極的に行っております。弯曲の程度が軽度な方は定期的な経過観察や装具による治療を行いますが、進行が見られる場合には手術による矯正固定術が必要となる場合があります。手術の際には、①術前の自己血の採取により同種血輸血を防ぐこと、②椎弓根スクリューを用いたより矯正率の優れた手術を行うこと、③手術中に神経損傷が起こらないように脊髄モニタリングによる神経の機能評価を行うこと、④術後の疼痛寛解の為にIV-PCA(患者さま自身が疼痛をコントロールできる術後疼痛緩和の装置)を使用して、術後の痛みの少ない治療を行うようにしております。入院期間は3週間ほどです。

脊柱側弯症の矯正固定術 1

脊柱側弯症に対する矯正固定術 1

 

脊柱側弯症の矯正固定術 2

脊柱側弯症に対する矯正固定術 2

 

4.脊椎圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術

 高齢による骨粗鬆症や転倒などの外傷、脊椎の腫瘍(各種癌の脊椎転移、骨髄腫など)によって背骨(脊椎)が圧潰した状態(圧迫骨折)とそれによって背中が凸に変形した状態(後弯変形)による痛みを改善させる経皮的椎体形成術(Balloon Kyphoplasty; 以下BKP)が、2011年1月から保険適応となりました。現在までは長期の安静やコルセットのみでの治療でしたが、疼痛の軽快までには非常に時間がかかりました。また、従来の手術(脊椎固定術)では,背中を大きく切開し、スクリューや自分の骨を骨折椎体周囲に移植する必要がありました。結果として手術創も大きく、手術による疼痛のために術後数日は起立歩行が困難でした。
 それと比べて経皮的椎体形成術では,骨折椎体の除痛効果・後弯変形の矯正が低侵襲に達成可能です。傷がとても小さく(左右1cmずつ),出血も少量です。手術後に全身麻酔から覚醒すれば,早ければ帰室後2〜3時間で自力歩行が可能となります。本人への負担(手術によるダメージ)の少なさこそが本法の最も優れたポイントです。
 この治療法は、圧潰した脊椎内に小切開にて針を挿入し、風船(バルーン)をふくらませることによって、圧潰した椎体や背中側に凸に変形している状態(後弯)を生理的な形態に復元してから、骨セメントを注入し固定をおこないます。手術時間は1時間弱で、通常の場合、入院期間は数日です。海外での臨床成績、本邦で行われた治験において、その安全性、疼痛の軽減、全般的な生活の質の向上)が報告されています。

本法を行うには医師の講習や試験による資格が必要ですが、東京都済生会中央病院はこの認定病院*となっております。

*施設認定基準

  1. 全身麻酔下及びエックス線透視下で経皮的後弯矯正術(Balloon Kyphoplasty)を実施可能な施設。
  2. 合併症発生時には、速やかに、全身麻酔下での脊椎除圧再建術や、血管修復術などの緊急対応を行うことができる施設。
  3. 本機器を使用した手術は、脊椎外科の専門知識を有し、本システム特定のトレーニングを受けた医師のみが行うこと。

 

術中の写真(クリックで拡大します)

4mmほどの針を挿入し、内圧を計測しながら
骨折椎体を整復します
(クリックで拡大します)

手術はレントゲンを見ながら、適切な位置を整復
しているか確認しながら行います(クリックで拡大します)

手術創は1㎝弱です(クリックで拡大します)

経皮的椎体形成術 術後(クリックで拡大します)

 

5.腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡下ヘルニア切除術

腰椎椎間板ヘルニアは腰痛や坐骨神経痛をきたし、代表的な腰椎変性疾患です。近年の画像技術の発達により自然経過や病態が明らかとなってきたものの、安静やブロックなどの保存療法のみでは軽快しない症例も数多く存在します。 診断基準は日本整形外科学会 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会が提唱しており、
1. 腰・下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2. 安静時にも症状を有する
3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4. MRlなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない
5. 症状と画像所見とが一致するの各基準を満たすもの
としています。 本術式の特徴は、
1) 椎間板、神経等の目標となる組織に近接した視野が得られること
2) 筋肉の剥離を最小限にとどめ術後の疼痛を少なくすることが可能なこと
3) 手術後の社会復帰が早いこと
です。約2cmの皮膚切開で内視鏡を用いて突出した椎間板を摘出(切除)します。一般的なヘルニアであれば本術式が可能です。術翌日より歩行を開始し、2-3日で退院が可能です。通常のヘルニアなど、多くの場合入院期間は4-5日間です。

術中の写真

内視鏡で直接確認してヘルニアを摘出します

上肢領域

肩関節周囲炎(五十肩)、腱板損傷、鎖骨骨折、肩関節脱臼、上腕骨頚部骨折、上腕骨外上顆炎(テニス肘)、野球肘、肘関節部骨折、肘部管症候群、橈骨遠位端骨折、腱鞘炎、ばね指、手根管症候群、ガングリオン、デュピュイトラン拘縮、手指脱臼 骨折、屈筋腱損傷、伸筋腱損傷、手指変形性関節症

 

手外科診療のご紹介

当院の手外科診療では

  1. 診察時にできるだけ多くの診療情報を即時に得ること
  2. 最小侵襲で最大の治療効果を得ること
  3. 患者様への苦痛を極力少なくすること
  4. できるだけ安全な治療を行うこと

を目指して、携帯型の高解像度超音波エコー装置(図 1)を駆使した診療を行なっており、その実際を紹介いたします。

図1:診察テーブルに超音波エコー装置を置いています
(クリックで拡大します)

 

1.狭窄性腱鞘炎(ばね指)

一般に指を動かす際、屈筋腱(指を屈曲する腱)は、腱鞘(腱を覆う鞘)に包まれた状態でスムースに滑走します。これに対し狭窄性腱鞘炎では、何らかの原因で屈筋腱や腱鞘が厚みを増し固くなることにより、腱の動きが悪くなり、指をスムースに動かせなくなります。ばね指は、屈筋腱が不完全に腱鞘に引っかかり、力を入れた際にばねが弾けるように突然動く現象です。屈筋腱が完全に腱鞘に引っかかると、指を曲げられない、あるいは伸ばせない症状が起こります。
このような指の動きが悪い場合、当科では超音波エコーで腱の動きの状態、腱や腱鞘の厚みの程度、腱の引っかかりの位置を的確に捉え、腱鞘炎の重症度を評価し、その後の治療方針(保存治療で良いか、ステロイド腱鞘内注入をどこから行うか、手術でアプローチすべき病巣はどこか、など)を決めるようにしています(図 2)。

図2:屈筋腱が腱鞘に引っかかっている超音波エコーの画像
(クリックで拡大します)

 

2.手根管症候群

手の中を通過する神経のひとつである正中神経は屈筋支帯と手根骨で作られる空間、いわゆる手根管の中を屈筋腱といっしょに走行しています。屈筋腱は手根管の中では腱滑膜という組織に包まれていますが、これが何らかの原因で腫れると、正中神経は屈筋支帯側に圧迫されて手根管症候群と称される神経障害を起こします。これに対する手術としては、手掌に切開を加え、皮下の屈筋支帯を切離して正中神経の開放を図る方法が一般的に行われています。
しかし、この方法は時に手術創の痛みの継続や、手指の握力やピンチ力の回復に時間がかかることで、社会復帰が遅れる問題点が指摘されています。これに対し、当院では手首と手掌に5〜10mm程度の小切開を加え、屈筋支帯の後ろに内視鏡を通して屈筋支帯を切離しています。この方法(内視鏡下手根管開放術といいます)は、
①術後の疼痛が少ない
②神経の回復が早い
③社会復帰が早い
などの利点がありますが、一方で重要な神経、血管を傷つけたり、屈筋支帯の切離が不十分になる危険性が指摘されています。そこで、当科では正中神経やその周囲の重要な血管の位置を超音波エコーでマーキング(図 3a)してから内視鏡手術(図 3b,c)を行い、術後には確実に屈筋支帯が切離されているかを透明な管に内視鏡を通して確認し(図 3d)、低侵襲で、安全、かつ確実な治療を心がけています。

  • 術前のエコーによるマーキング

    術前のエコーによるマーキング
    (クリックで拡大します)

  • 内視鏡の設置

    内視鏡の設置
    (クリックで拡大します)

  • 屈筋支帯の切離

    屈筋支帯の切離
    (クリックで動画をご覧頂けます)

  • 切離状態の確認

    切離状態の確認
    (クリックで動画をご覧頂けます)

3.超音波エコーガイド下神経ブロック

従来の神経ブロック(あるいは伝達麻酔)は、神経のおおよその位置を想定して針を盲目的に刺入し、針が神経に触れた際に発生する電撃痛を根拠に行なっていました。しかしこの方法は、時にブロック施行後の神経損傷や血管内に誤って麻酔剤を注入する危険性が指摘されています。そこで当科では超音波エコーで神経、血管を視覚的に捉え、これらに直接針が刺さらないようにしながら神経ブロックを行うことで合併症を回避し、確実な麻酔効果を得るようにしています(図 4)。さらに、患者様が骨折や脱臼で外来を受診された際、その場でエコーガイド下に神経ブロックを行い、患部の痛みをとってから整復、外固定を行うようにしています。上肢の手術では、エコーガイド下の腕神経叢ブロックを多用し、術中の麻酔のみならず術後の長時間にわたる除痛を得るようにしています。

図 4:エコーガイド下腕神経叢ブロック(鎮骨上法)(クリックで拡大します)

 

4.その他

筋断裂(いわゆる肉離れ)、腱損傷、靭帯断裂は、通常のレントゲンでは捉えられない病態ですが超音波エコーではこれらを画像として確認することができます。当科では,関節内や腱鞘内への薬剤(ステロイドやヒアルロン酸)の注入も、超音波エコーで針先の位置を確認しながら行うことで治療の精度を高めるようにしています。

【デュピュイトラン拘縮の“切らない”治療が始まりました】

デュピュイトラン拘縮(こうしゅく)注1)は、手掌腱膜(しゅしょうけんまく)注2)にコラーゲンが過剰に沈着することによって拘縮索(こうしゅくさく)注3)ができ、これが指関節をまたいで短くなってくるために手の指が徐々に伸ばしにくくなる病気です。主に薬指、小指に多く見られます。高齢男性や糖尿病の患者さんなどに多く見られることが報告されていますが、詳しい原因は分かっていません。

今までデュピュイトラン拘縮(こうしゅく)に対して有効であることが分かっている治療法は、国内においては手術のみでしたが、海外では5年前からザイヤフレックスという薬剤による治療が行われています。2015年より国内でも同薬剤が承認され、当院でも使用可能となっています。ザイヤフレックスを索状物(さくじょうぶつ)に直接注射することにより、コラーゲンを分解し拘縮(こうしゅく)を改善する作用があります。

ザイヤフレックスは日本手外科学会の専門医で、定められた講習を受講した医師のみが使用可能な薬剤となっており、当院の亀山医師は既に使用資格、および実績を有しております。同疾患でお悩みの方は、是非ご相談下さい。

注1)拘縮(こうしゅく):関節の動く範囲が狭くなった状態のこと。
注2)手掌腱膜(しゅしょうけんまく):手のひらの皮膚のすぐ下にある膜のこと。
注3)拘縮索(こうしゅくさく):拘縮(こうしゅく)の原因となっている索状物(さくじょうぶつ)のこと。

  • hand-1

    施行前

  • hand-2

    施行後

下肢領域

変形性股関節症、大腿骨頭壊死、大腿骨頚部骨折、変形性膝関節症、膝半月板損傷、膝靭帯損傷、脛骨顆部骨折、膝蓋骨骨折、下腿骨骨折、足関節捻挫、足関節靭帯損傷、足関節部骨折、外反母趾、踵骨骨折、アキレス腱断裂、足底腱膜炎

股関節疾患のご紹介

股関節に大きな障害がある方に人工股関節手術を行うとすばやく痛みが改善し、歩行状態も改善するケースが増えています。当院で行われている人工股関節手術は日本人の骨形態にぴったり合うように開発した人工股関節を使用すること。正確に手術を行えるようナビゲーション手技と呼ばれるコンピューター支援手術(CAS: Computer Assisted Surgery)を行うなどの特色があります。これまでの実績も合わせて紹介します。
まず人工股関節手術は1970年代から少しずつ世界中に広まり、人工股関節の材質、手術器具、手術方法の改良を経て、現在日本で広く行われています(年間約5万件)。手術を正確に行い早い時期から歩行練習・リハビリテーションを開始し、術後のトラブル(合併症)が起こらないよう適切な対策を取れば、ほとんどの方が順調にすばやく回復します。当院でも股関節の痛みが強く歩行が困難であった患者さんが人工股関節手術を受けた場合、ほとんどの方がすばやく回復し痛みを訴えず正常に近い歩行状態で退院します。またこのような痛みがない良い状態がずっと継続する長期耐用性も実現しています。
 当院整形外科部長・柳本繁は長年慶應義塾大学病院で人工股関節の開発から安全かつ正確に人工股関節手術を行える研究に従事してきました。平成7年から平成20年まで慶應義塾大学整形外科の股関節グループのトップを努め、平成21年より東京都済生会中央病院の整形外科部長として勤務しています(http://www.kansetsu-itai.com/doctor/doc034.php)。慶應義塾大学病院時代から行なってきた人工股関節手術の特徴についてお伝えします。

  1. 日本人にぴったり合う人工股関節システムの使用

    日本では主に外国製の人工股関節が使用されてきました。日本人の股関節患者の方は生まれつき股関節が脱臼や亜脱臼している人が多いこと、外国人と日本人は体格が異なることなどから、従来から本当に日本人にぴったり合う人工股関節が求められてきました。慶應義塾大学では1986年から日本人に文句なくぴったり合う人工股関節を作成するプロジェクトが開始され、日本人股関節患者の方のCT scanデータを多数集めて分析してきました。この分析結果に基づき日本人専用の人工股関節を京セラ株式会社人工関節部門と共同開発し、KKS(慶應・京セラ・シリーズの略)人工股関節が完成しました。KKS人工股関節は日本人の骨形態にぴったり合うように工夫されたシステムです(図1)。現行モデルは改良を経て1995年に完成しその後継続使用されています。KKS人工股関節を使用した結果は大変よく、優秀な臨床成績を2010年の第83回日本整形外科学会学術集会パネルディスカッションで柳本が報告しています。さらに人工関節が動く部分には摩擦が低く長持ちする京セラ製のセラミック素材を使用し、人工軟骨にあたる部分にはγ線照射による硬度の向上や摩耗がさらに減るコーティング(Aquara)を使用するなど、長期間に渡って安全かつ長持ちできる種々の工夫が加えてあります。開発後現在まで使用して長期間の成績も問題なく安定しています。非常にピッタリ安定良く骨に固定される特徴があることより、手術後すぐに体重をかけた歩行練習(当院では手術後2日より)を開始することができます。このシステムが早期リハビリテーション、ひいては早期退院を可能にしています。

    図1.日本人用に開発された KKS人工股関節

  2. 人工股関節ナビゲーション手術

    現在はコンピューターの時代で、利便さ、正確さを得るために様々な場面でコンピューター技術が使われています。外科的手術の分野でもコンピューター支援手術(CAS: Computer Assisted Surgery)の導入が行われています。人工股関節は骨に正確な位置で設置されることで、動きも良くなり耐用年数も延長することが知られています。我々は人工股関節を理想的な位置に正確に設置するために2003年以降ナビゲーションと呼ばれる技術を使用しています(図2-1,2,3)。自動車のナビゲーション技術と似ていて、コンピューターが正確な位置の情報を示し、それを導かれて正確な向きや位置に人間が人工股関節を設置する技術です。柳本は10年以上前から慶應義塾大学病院でナビゲーション・人工股関節手術を開始して、日本での人工股関節ナビゲーション手術のパイオニア的存在です。ドイツのIT関連医療機器会社とも協力して新しいナビゲーション技術の手技開発に携わってきました。具体的な人工股関節ナビゲーション手技は股関節CT scanを基に手術前に詳細な設置計画(プランニング)を立て(図2-1,2)、手術中に小さな傷で骨盤に立てた赤外線マーカーをコンピューターの赤外線モニターで追跡しながら、赤外線マーカーがついた設置器具を用いて正確な位置に人工股関節を設置しています(図2-3)。ナビゲーション人工股関節手術を初めて10年以上経過し400例以上の経験があります。現在はほぼ全例にナビゲーション手術を行っています。実績は国内外の多くの学会で報告しています(当院整形外科業績参照)。最新のナビゲーション技術を使用して行われた人工股関節の骨盤側での設置精度は角度にして平均誤差は3度以下と非常に高い精度となっています。このように当院では人工股関節の正確な設置を第一目標にしています。 一方で人工股関節手術に際して傷の小ささを小侵襲と呼び重視している施設もあります。人工股関節は本体の大きさの問題もあり、設置には最低でも8cm程度の皮膚切開が必要です。人工股関節手術の皮膚切開の長さの長短について様々意見が述べられていますが、皮膚の下の筋肉を切る範囲や骨を削る部位はみな必要最小限でほとんど同じです。MISは最小侵襲(Minimum Invasive Surgery)ではなく小皮切手術(Mini Incision Surgery)を意味すると述べる医師もいます。当院では必要な長さの皮膚切開を加え、無理に小さな傷にこだわることはありません。患者さんの体格や筋肉の厚みにより手術のやりやすさや必要な傷の大きさは異なります。しっかり視野が確保され正確かつ素早く手術できることを重視し、切開の大きさは8~15cm程度と幅があります。これは人工股関節手術は正確さが最も重要と考えるからです。当院では正確重視のナビゲーション手術を行なってきましたが、現在では国内でのナビゲ-ション手術認知も進み、2年前より保険診療上も人工股関節ナビゲーション手技加算が認められるようになってきています。

    図2-1. ナビゲーション用
    人工股関節手術前プランニング
    (クリックで拡大します)

    図2-2. ナビゲーション手術
    股関節ソケット設置目標
    (クリックで拡大します)

    図2-3. ナビゲーション人工股関節手術・設置時
    (クリックで拡大します)

  3. 早期リハビリテーション、早期回復の工夫

    日本人にピッタリあった人工股関節を正確に骨に入れること(図3)は早期のリハビリテーション・歩行練習を可能にします。麻酔技術の進歩も相まって、当院では現在手術による体力の衰えは最小に抑えて、早くからリハビリテーションを行う取り組みが行われています。人工股関節手術を行なった翌日よりベッド上で座る練習や関節を動かすリハビリテーションを行います。さらに術後2日目からは自身の足で立って自力で歩行練習を開始するスケジュールになっています。日本人にぴったり合う人工股関節を使用すること、正確に理想的な位置に設置できることなどの様々な最新技術がすばやいリハビリテーション開始を可能にします。麻酔も軽く、また早期にリハビリテーションを開始し素早く回復する事が可能になり、体力的に元気な方はたとへ高齢であっても人工股関節手術を受けることができる時代です。当院でも80歳代、90歳代で手術を受けて自力で歩いて帰った方がたくさんいます。高齢だからと諦めずに当院整形外科にご相談下さい。また人工股関節手術後に早期に自身の足で歩行練習を開始すること自体が後述する血栓症などの合併症の予防対策にもなります。

    図3.KKS 人工股関節(骨にピタリ合った設置)

  4. 術後合併症(静脈血栓塞栓症)予防の取り組み

    手術後は出血が少なくなるよう体が反応し血が固まりやすくなること、自身の足で歩けない期間があることより下肢の血行が悪くなる傾向があります。このため人工股関節手術後は下肢及び肺に血の塊が詰まる血栓症(血栓症のうち手術に関係しないものはエコノミー症候群と呼ばれています)が生じ易いとされています。血栓症が発症して重篤になることは非常に稀ですが、術後順調に経過していた方が、突然血栓症を発生して心臓や肺の血流が遮断されて急速に悪化して重篤となる例があることより昔から恐れられています。手術後の血栓症予防にはまず早期に自分の足で体重をかけて歩いて足の血流を改善させることが一番重要です。正確な手術で人工股関節を安定良く設置して素早くリハビリテーション・歩行練習をさせることが重要です。さらに血栓症対策として下肢の血が鬱滞しないよう弾性ストッキングを着用することや下肢を圧迫刺激して血流をよくする器械(フットポンプと呼ばれます)を使用することも重要です。また薬物により血栓症を予防する予防的抗凝固療法があります。日本でも9年前から人工股関節手術例の血栓予防に薬物使用が可能となりました。ただし薬物使用により術後は手術部が出血しやすくなることもあり、個々の患者さん方の状況により薬物療法も慎重かつ適切に行う必要があります。当院では日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン委員で股関節ガイドライン作成に従事した部長の柳本繁が、適切な評価のもとに人工股関節手術後の必要例に適切な血栓症予防薬投与行なっています。血栓症発生により症状が出ることは非常にまれですが、万一にも十分備えて安全に合併性もなくすばやく回復し退院していただけるシステムを構築しています。

    以上のように当院では人工股関節について最新かつ最善のシステムを持ちお待ちしています。股関節に痛みがあり人工股関節手術をお考えの患者の方は是非当院整形外科を受診しご相談下さい。当院は完全予約制ですので、電話で予約頂くか、紹介状持参でのご来院をお待ちしています。

    文責:整形外科部長 柳本繁

特殊外来の紹介

専門の医師が、以下の外傷、疾患に対して、予約制で専門的診療を行っております。

手外科外来(亀山担当)

上肢の骨折、変性疾患(変形性関節症、リウマチ、など)慢性の肘、手関節の炎症による疼痛、糖尿病などに伴う手の腱鞘炎、関節拘縮、神経障害、感染症

肩関節症外来(小川担当)

変形疾患(肩関節周囲炎、腱板損傷、変形性肩関節症、など)スポーツ障害(野球肩)

股関節症外来(柳本担当)

変性疾患(変形性股関節症、大腿骨頭壊死、先天性股関節脱臼、リウマチ、など)

膝関節症外来(中山担当)

変性疾患(変形性膝関節症、リウマチ、など)スポーツ障害(靭帯損傷、半月板損傷)

側弯症外来(岡田担当)

小児・思春期の側弯症、成人側弯症、高齢者の脊柱側弯・後弯変形など

東京都済生会中央病院整形外科・年度別手術件数

年度・内容別手術数 2009 2010 2011 2012 2013
脊  椎 226 224 192 193 233
人工関節 76 73 65 100 84
外傷 206 202 289 292 258
関節疾患 18 13 12 11 12
手の外科 122 127 126 159 169
その他 75 44 60 43 47
総  数 723 683 743 800 803

学術的業績

平成21年度~平成25年度の業績をお示しします

2009-2013年度整形外科業績

当科医師の著書ご紹介

ウルトラ図解

くび・肩・背中の痛み

~不快な症状をもとから治す、知識と治療~

整形外科部長 手塚正樹 監修

本書では肩こりのメカニズムや肩こりを起こす病気についてわかりやすく解説し、自分で簡単にできる効果的なセルフケアや、生活の中での肩こり予防法を詳しく説明しています。肩コリに悩む皆様にとって、症状改善の一助となる本です。

発行所:(株)法研

定価:本体 1,500円+税

ウルトラ図解

腰・ひざの痛み

~つらい痛みを軽くする最新治療と暮しの工夫~

整形外科部長 柳本繁・副医長 岡田英次朗 監修

本書では腰、ひざ疾患について最新の治療法を詳しくわかりやすく解説し、またロコモ(運動器異常)を防ぐ方法も提案しています。皆様が健康寿命を延ばして、いつまでも自力でいきいきと生活できる一助となる本です。

発行所:(株)法研

定価:本体 1,500円+税

book-yanagimoto

トップ専門医の「家庭の医学」シリーズ

スーパー図解  変形性股関節症・膝関節症
 -つらい痛みを解消し、自分で歩く力を保つ-

整形外科部長 柳本 繁

変形性股関節症や変形性膝関節症は、体を動かす要である股関節や膝関節に障害が出るため、歩行や日常生活の動きにも困難を感じるようになるなど、患者さんの生活に大きな影響を与える病気です。しかし今では様々な治療法や手術法が選択できるようになっております。本書は変形性股関節症、変形性膝関節症の基本的な知識から、治療法、最新の手術法まで豊富な図解を交えながらわかりやすくご紹介しています。いつまでも自分の体で自由に活動でき、人生を最後までイキイキと過ごすための一助となる一冊です。

出版社:株式会社法研

定価:本体 1,400円+税

快速まるわかり

「腰・ひざの痛みを解消する」

整形外科部長 柳本 繁

腰痛やひざ痛のメカニズム、発症しやすい疾患の症状と診断法、さらに手術を含めた最新の治療法、日常生活を送る上での工夫などを図解入りでわかりやすくまとめています。

出版社:株式会社法研

定価:本体 1,300円+税

快速まるわかり

「首・肩の痛みとこりを解消する」

脊椎外科担当部長 手塚正樹

多くの人が悩まされている首や肩周辺の痛みやこり、不快感。たかが肩こりと放置するとさらに頑固な痛みに変わります。本書では肩こりの仕組みや原因とともに、肩こりと間違えやすい病気、首や肩周辺に表れる疾患、根本的に治す方法などをやさしく図解しています。

出版社:株式会社法研

定価:本体 1,300円+税

NHKきょうの健康

一生いきいき!健康ダイアリー2014年版

「手指からわかる病気のサイン」

担当部長 亀山 真

NHKの健康情報番組「きょうの健康」に出演した第一線で活躍する医療の専門家が、病気の治療や予防、検査など、健やかに暮らすために知っておくべき最新の情報を丁寧に解説しています。

出版社:主婦と生活社

定価:本体 1,000円+税

 

MB Orthopaedics 誌 27巻21号

論文:「頚部脊髄症に対する片開き式脊柱管拡大術」

副医長 岡田英次朗

片開き式脊柱管拡大術は頚部脊髄症に対して、安定した術後成績を得ることが可能な術式です。本稿では本術式の適応、手技上のポイント、術後成績について概説しています。

出版社:全日本病院出版会

定価:本体 2,200円+税

TOPICS

MISt

「健康特集 ひざの老化を防ぐ」
「明日の友」2017年226号早春で整形外科副医長の武田勇樹医師が変形性膝関節症の予防と治療について解説しています。

加齢とともに増える「変形性膝関節症」は、国内に約2400万人、50歳以上の女性の3人に2人に生じていると言われており、うち痛みを伴う人は約1000万人と推定されています。

本誌では、なぜ膝は痛くなるのかというメカニズムから誰でもできる簡単な体操まで掲載しております。

是非ご一読ください。

MISt

MISt(Minimally Invasive Spine Stabilization:ミスト)とは、低侵襲脊椎手術手技(低侵襲に脊椎を固定する)だけでなく低侵襲脊椎安定術(制動や安定化)も含めた手技の総称です。

関東MISt研究会は侵襲脊椎手術手技、低侵襲脊椎安定術を中心とした脊椎脊髄疾患に携わる医療の研究の促進、知識の交流および普及を図ることを目的として研鑽を積んでいます。

本年9月に開催されました第3回関東MISt研究会にて当院整形外科の森下緑医師の発表がBest Paper Awardに選出されましたのでご報告いたします。

発表テーマ:
「Diffuse idiopathic skeletal hyperostosisに伴った脊椎損傷に対するMIS-long fixation」

magazin-shukanjosei

週刊誌上で岡田英次朗副医長が「筋筋膜性腰痛症」について解説

週刊女性(主婦と生活社発行)10月14日号に掲載のフィギアスケート・ソチオリンピック金メダリスト羽生結弦選手の記事に関連して「筋筋膜性腰痛症」について、当院整形外科岡田英次朗医師が解説しています。
羽生選手は練習中に腰の痛みを訴え、10月10日フィンランドで開催された「フィンランディア杯」に欠場したとのことです。

orthopedics

読売新聞で低侵襲脊椎手術を実施している病院として
当院が紹介されました

平成26年12月28日付け読売新聞で、患者さんの負担の軽い「最小侵襲脊椎安定術(MISt=ミスト)」が詳しく紹介されています。
その中で、当院がその実施病院として紹介されております。

shufunotomo

シニア向けに生活、健康など幅広く情報提供している「明日の友」(主婦之友社、隔月刊)の最新号(214号、2015.2-3月)で整形外科部長の柳本繁医師が股関節疾患についてその病態から最新の手術法まで分かり易く解説しています。

同誌の「健康特集」のコラムに“股関節の痛みを解決”と題し、股関節の機能から股関節に痛みを生じさせる疾患、その治療までを13ページにわたり詳しく解説。また筋力を付けて痛みを改善させたり予防したりするための運動療法もご紹介しています。
日進月歩の人工股関節手術では最新のナビゲーション手術について説明しています。
なお、人工股関節手術によって不自由な生活から解放された方の経験談も掲載されており、一読の価値のある特集となっております。

orthopedics

平成27年2月5日(木曜日)付け読売新聞(全国版)で、患者さんの負担の軽い「最小侵襲脊椎安定術(MISt=ミスト)」が詳しく紹介されています。
その中で、当院がその実施病院として紹介されております。

orthopedics

夕刊フジ(3月6日金曜日発行>の「名医はこの人 ブラックジャックを探せ」のコラムで、当院整形外科部長の柳本繁医師が紹介されています。

記事では「・・・東京都済生会中央病院整形外科部長の柳本医師は、足腰の要となる“股関節”の手術において高い知名度を持つ整形外科医だ。・・・人工股関節の開発にかかわる一方、コンピュータを利用して人工股関節を設置する際の正確度を高める『ナビゲーションシステム』を10年前にいち早く導入するなど、技術の進歩牽引してきた・・・」と紹介されています。

健康について幅広い角度から考える健康誌「健康365」4月号(発行:(株)エイチアンドアイ)で、整形外科担当部長の手塚正樹医師が腰部脊柱管狭窄症について解説しています。

高齢化に伴い増加している腰部脊柱管狭窄症。脊柱管内の神経が圧迫され、足・腰の痛みやしびれが生じる病気です。本誌ではその発生メカニズムから予防法などお話ししています。