生活困窮者医療

生活困窮者医療について

済生会は明治天皇の「生活に困り、医療、福祉を受けられない人々にも救いの手を差しのべるように」というお言葉から創設された組織です。第二次世界大戦前は、済生会は全国から集められた基金により運営され、医療はすべて無料で提供されていました。戦後は生活保護制度の導入により、済生会の医療も保険診療が中心となりましたが、現在も社会福祉法人として一割以上の患者さんに対して無料低額診療が提供されています。また、創立以来の「済生の精神」を引き継いで、多くの済生会の施設が生活に困っている方々に対する支援事業に取り組んでいます。
当院における代表的な生活困窮者支援事業として、戦前からの乳児院の経営がありますが(詳細はホームページ上の別項をご参照下さい)、もう一つの核となる事業にホームレスのための専用病棟の運営があります。現在は平成14年に廃院となった東京都立民生病院の機能を引き継ぐ形で、新棟3階、4階に59床の専用病棟(N3、N4病棟)を設けています。多くの患者さんは何らかの事情でホームレス生活となり、健康を損ない、行き倒れとなって救急車にて搬送されてきますが、福祉事務所からの紹介で入院となることもあります。
ここで提供される医療は通常の医療とまったく変わらない内容ですが、入院までの生活歴や病歴が不明なことも多いので、診断や治療が難しいこともしばしばあります。また、ほとんどの患者さんは家族が居ない、または家族から見放されていることが多いため、病状が落ち着いた後の退院先を見つけるのに苦労します。多くの患者さんは入院後、生活保護制度により保護を受けることになるので、福祉事務所の担当者と当院のケースワーカーが中心となって退院調整を進めます。ホームレスと言っても気のいい患者さんが多く、研修医や看護師からは大変人気のある病棟です。当院には社会的な地位の高い方もたくさんいらっしゃいますが、社会的背景の異なるさまざまな患者さんに対して分け隔てない医療を提供することが当院の大切なミッションだと考えています。
また、最近取り組みをはじめた新たな事業に、刑余者に対する更生保護施設への医療支援があります。今年度もある施設の入所者に対するインフルエンザワクチンの無料出張接種事業を行ないました。

東京都済生会中央病院 院長  高木 誠

生活困窮者医療の歴史

東京都立民生病院(以下「民生病院」)の設立と運営受託の経緯

昭和23~24年頃。戦災で家を失い、浮浪状態に陥った多くの都民の一般生活は極めて窮乏をつげいました。衣食を探し、住を求める人たちの中に交って、浮浪者や行路病者が至る所に見かけられました。東京都は特殊な医療保護施設の設置が最善として、昭和25年の都議会で決議し、昭和28年に民生病院が完成しました。
民生病院は当院の隣接地に建てられ、その設備は病床等の最小限のものとし、手術、検査、放射線、薬剤、給食等は当院の設備を使用し、運営も当院が行うことを前提として建てられました。こうして民生病院の運営受託が開始されました。

民生病院の機能継承の経緯

昭和28年から平成14年まで約50年間、当院は民生病院の運営受託を継続してまいりました。東京都は民生病院の廃止を決定しますが、民生病院機能は必要とし、当院はその都有地の払い下げを受け新しい建物を建築し、民生病院機能を継承しました。それが現在のN棟の3階・4階の病棟です。

N棟医療の現状

ホームレス、生活困窮者の医療には、特有の問題があります。まず、主として経済的な問題から医療機関への受診が難しいため、あらゆる疾患で早期発見、早期治療を行うことが困難な点が挙げられます。特に悪性腫瘍において顕著で、当院へ入院された際には末期の状態となっていることがしばしばです。その他の生活習慣病、肺炎などの感染症においても同様の傾向が見られます。また、最近では、特に高齢の患者さんで認知症の合併が多くなっており、身寄りがほとんどない生活状況もあり、退院後の生活の場をどうするかに難渋することも多くなっています。ホームレス、生活困窮者医療の今後に関しては医療機関だけではなく、社会全体で取り組む必要が出て来ているのが現状と考えられます。

トピックス

秋篠宮殿下が平成25年9月10日、当院と同附属乳児院を視察されました。殿下は今年4月、済生会の第6代総裁に就任され、多忙な御公務の合間を縫い、初の済生会施設の御視察となりました。

当院は、明治天皇が生活困窮者を支援するため済生会を立ち上げられて以降、本会活動の拠点となっている施設です。先進的な医療技術を誇る一方、現在も約60床の「ホームレス病棟」を有し、恵まれない境遇の方々への医療支援を積極的に行っています。
秋篠宮殿下は、豊田章一郎会長らの出迎えを受けられ、高木誠院長の先導で病室やホームレス用の処置室等を御視察。高木院長の説明を受け、スタッフにもどのような患者さんが多いかなど質問をしていらっしゃいました。また殿下は、病院に隣接する同附属乳児院も御視察になりました。韮澤眞理院長の説明に熱心に耳を傾け、乳児室では子供をお抱きになり笑顔を向けていらっしゃいました。当院は2年後、創立100周年を迎え、新病棟建設や乳児院の建て替えなどが計画されています。(総務課)

殿下1

高木院長を先導役に病棟を御視察

殿下2

笑顔で乳児院を御視察される秋篠宮殿下